« ロビンさん | トップページ | 梶原さん »

2006.03.31

「タッチ、アート!体感する美術展」の感想より

すでに3月26日で終わってしまったのですが、
川越市立美術館でおこなわれていた「タッチ、アート展」に行ってくださった
附属盲の工藤さんからとても興味深いレポートをいただきました。
少し長いですが、全文を紹介させていただきます。
なお、この文章は、jarviメーリングリストに投稿されたものを、加筆訂正していただき、このブログへの掲載を許可いただきました。
ありがとうございます。

-------ここから--------

その日ぼくは過密なスケジュールもものともせずに川越市立美術館に向かった。なぜなら今開催されている企画展「タッチ、アート!体感する美術展」の期間が残すところ後2週間に迫っていたからである。
 予定より遅れて午後4時に到着したが、それでもなんとか2時間は鑑賞時間を確保できそうだった。ところが、
 「あれえ? 5時で閉館なのぉ?」
 何の根拠もなく「閉館時刻は午後6時」と勝手に思い込んでいたぼくは、あまりのショックにしばし呆然と立ちすくんでしまったのだった。
 この美術館は意外に広くて、丁寧に見学すると半日はかかりそうだった。しかし、今は4時で、閉館時刻は5時。1時間しかないということで、今日は触覚、嗅覚、聴覚で鑑賞できる作品に絞って鑑賞することにした。

 1階の受付を済ませてエレベーターに乗り込むと、ぷーんと花のようないい香りがした。しかしこれはぼくらの前に乗った人の香水のためではない。こっそりと鏡に貼られた石けんが漂わせるマンゴーの香だったのである。
 (エレベーターまでアートにしてしまうこの展覧会、ただものではないな!)

 地下1階に到着すると、今度はチョコレートのようなキャラメルのような甘い香りが立ちこめていた。それでぼくはひそかに、
 (ひょっとして試食があるのかな?)
 と、甘い期待に胸を膨らませたのだった。

 地下1階のブースに入っていくと、わずかな空気の動きを察知して揺れ動くやじろべえのような作品があった。そしてぼくらが歩いているだけで、それはゆらゆらと動いたのだった。これは手で触れられるものではなかったが、とても不思議なアートで、いったいどのような仕組みになっているのか非常に興味が沸いた。

 少し進むと、小原 馨氏による和紙の作品があった。これは、和紙を台紙に貼り付けたものなのだが、意図的にしわを作り、そのしわで抽象的なイメージを表現するというものだった。よくよく手で触れてみると、和紙の下には、糸か紐のようなものが埋まっている部分もあり、こうした細い物でイメージを作った上から和紙を貼り付け、しわによる表現も加えて完成させたもののようだった。30ほどもあるこれらの作品に1つ1つ触れているうちに、ぼくは、
 (自分の頭の中にあるイメージを和紙のしわで表現するのは難しいけど、和紙をわざとしわができるように適当に貼ってみて、後から何かに見えないかって考えるのは、結構おもしろいかも知れないなあ。)
 と、遊び心がふつふつと沸いてきた。そして、
 (そうだ! ふすまや障子の貼り替えに挑戦して、もしも失敗してしわくちゃになったら、「これはアートなんです!!」って言い張るのもありかも知れないな!)
 と、まだ見ぬ失敗の言い訳まで考えてしまったのだった。
 中には巨大な落花生のような形をしたものもあり、こういう厚みのある作品がどのように作られたのか興味があったので、
 「これは和紙を重ねて作ったものですか?」
 と尋ねてみたが、残念ながらこの作品に詳しい方が不在で、具体的な作り方までは知ることができなかった。

 作品に触れながら進んでいくと、エレベーターを下りた時に感じたあの甘いお菓子のような香りがどんどん強くなってきた。そしてようやくその正体が判明した。目の前にブラジル・ナッツの大集団が現れたのである。直径1cmほどのバスビーズを1万個敷き詰めて作られたこの空間は、南米の森林伐採をイメージした作品とのことだった。また、壁際には、ちょうど絵本に出てくる三角屋根の家のような形の香り箱があり、それぞれ違った石けんの香りを嗅ぐことができた。ただ、あまりにもブラジル・ナッツの香りが強すぎて、石けんの香りが押し殺されてしまっていたのが少々残念ではあった。

 いちばん奥には原田 和男氏による音のアートがあった。これらは実際に手にとって鳴らしてみることのできるものが多く、美術館にいることも忘れて家族演奏会をはじめてしまった。
 最初に鳴らしてみたのは、長さの違う太い鉄パイプが床面に対して45度ぐらいの角度で並んでいるもの。上端または下端を、ラバーの貼られた卓球のラケットのような道具で叩くと、いろいろな音を出してくれた。ジャスト・ミートすると、低い音が管内に響くし、当たる角度が斜めになると空振りのような高い音になり、いい音を連続的に出すために結構長い時間そこでポンポコポンポコ練習してしまった。
 その隣には、高さ60cmぐらいの八角柱の鉄の太鼓があった。上面はどれもひび割れたように不規則な小多角形に別れていて、鉄琴のばちで叩くと、叩く場所によって音の高低や共鳴の仕方がまるで違っていた。そこでどこで音程が変わるのか、どこで響き方が変わるのか、その楽器のそばに耳を近づけて研究してみた。すると、音の高低そのものは1つ1つの多角形ごとに決まっているようなのだが、響き方は、隣り合う多角形との間の隙間の広さなどとも関係がありそうで、すぐにその規則性を解明できるほど単純なものではなかった。それだけにうまく音程をとらえて何かの曲を演奏できたら、これは実に楽しいだろうと思った。そして気がつくと、家族は4つあるこの楽器をそれぞれに思いのままに叩いて大合奏を繰り広げていたのだった。
 なにやら魔法使いのような音が聞こえると思っていたら、それは中に金属と磁石を入れて作った不思議な鉄球だった。鉄だけにとても重いのだが、それを持ち上げて動かしてみると、シャラシャラ、キラキラと、とても美しい音が聞こえてきた。これの応用版として、赤ちゃんをあやすガラガラと同じ構造の巨大な円柱を作って水の中に浮かべたものもあり、本当に飽きることなく音のアートを満喫することができた。
 最後に長さの違う細い鉄柱が円柱形に立てられていて、それを巨大なバイオリンの弓のようなもので弾くという作品を見せてもらった。これもまた不思議な音がするとのことだったのだが、ぼくは持ち前の不器用さのために結局うまく音を出せないでしまったのだった。それでも丁寧に説明してくれたそのコーナーのスタッフは、
 「これは弦が緩いですねえ。すみません。」
 と言ってくれたのだった。本当はただ単にぼくが不器用なだけなのに。

 気がつくと閉館10分前になっていた。その時ぼくははたと気がついた。
 (いっけねえ! 今日のいちばんの目的は光島さんの作品に触れることだった!!)
 そこで急いで1階のタッチ・コーナーと名付けられているブースに移動した。光島 貴之さんは全盲の画家で、製図用のテープを用いた絵画が特徴である。はじめて彼の作品に出会ったのは2001年のこと、6月にはテレビで、12月には大阪で開かれたアート・フェスタで鑑賞していた。しかし、実物を目の前にしてもその時には手で触れることができなかったから、ぼくはとても落胆したのだった。それが今回はじめて触れられるのである。
 最初の作品で驚いたのは立方体の5面にそれぞれ違った絵が描かれていて、立方体を回転させて各面の絵を触れてみることがてきたことだった。ぼくは彫刻展などでは、具象化された作品の鑑賞よりも、抽象的な作品をそのタイトルと照らし合わせながら自分なりにイメージしていくのが好きである。しかし普通“触れられる絵画”というものはないから、絵画でそのような楽しみ方をしたことがなかった。それが今回は数多くの光島さんの作品でそれを体験することができるのである。
 ただ、今日は時間がなかった。もうすでに残り時間は5分ほどになっていて、ゆっくりと時間をかけて鑑賞することができないことが分かっていたから、ぼくはとりあえず分かりやすい作品2つだけをじっくりみることにした。
 1つめは「サングラス」。これはタイトルがなかったらきっと理解できなかったと思うが、最初からサングラスだと思って触れてみると、すぐにそれと分かり、それだけでなんだか嬉しかった。
 もう1つの作品は「マーブルチョコが散らばる」というもの。これは光島さんの独特の表現方法が使われているいかにも光島さんらしい作品だった。彼は缶コーヒーのような円柱形の物を表現する際に、円と長方形を別々に描く。これは視覚的には投影法によって上面や下面は楕円形に、側面は上縁と下縁が楕円形に変形した長方形にとらえられるのに対して、触覚では円柱形は、円と長方形しか感じられないということを伝える手法である。マーブルチョコの入れ物は短い円柱と長い円柱からできている。これが円と長方形で表されているのだが、長方形の1辺が欠けていて、それによって開いている口を表現しているのである。

 ここで惜しくもタイム・アップ。本当に後ろ髪を引かれる思いでぼくは川越市立美術館を後にし、美術館横のいも菓子屋で竹蒸しいもようかんといもけんぴを買って川越駅行きのバスに乗り込んだのだった。

 (筑波大学附属盲学校 教諭  工藤 滋)

|

« ロビンさん | トップページ | 梶原さん »

作品・展覧会」カテゴリの記事

コメント

とーくる(K)さん、コメントありがとうございます。
 川越市美の展覧会も終わり、作品はもうひとつの美術館に届いたようです。
次はまた違った場所で見てもらえます。よろしく。

投稿: 光島 | 2006.04.08 09:01

同じ展覧会を拝見して、工藤さんのコメントを読み、再度会場のことを思い返していました。あのドキドキとハラハラ。
私もあの鉄の丸い楽器が上手く弾けなく、偶然居合わせた作家ご本人に引いて頂きました。
人それぞれ、かつ、みんな楽しいステキな展覧会だったのだと再確認です。
会場の香りはきっと、会期終了に近づくにつれ香りというより、匂いとしてキツくなったのではないかと思います。私は南国に行きたくなる感じで癒されましたよ。

ちなみに、私はゆっくり光島さんの作品を触って、四角形の箱も「うんしょ」と動かしつつ触れておりましたが、タイトルにあまり関心を払っておりませんでした。(ごめんなさい。くせです)
また新しい楽しみ方を教えていただくことができました!

投稿: とーくる(K) | 2006.04.05 18:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「タッチ、アート!体感する美術展」の感想より:

« ロビンさん | トップページ | 梶原さん »