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2008.07.30

『治療塔』

ウナギも食べました。モモも食べました。
食べてるだけでは、暑い夏を乗り越えられそうにないので、知的好奇心も満足させないといけないと思い、本を読むことに。

最近、視覚障害者の間で注目されているのは、ビブリオネットだろう。
録音図書のデジタル化が進んだことで、それらのデータがネットで配信されるようになったのだ。
インターネットに繋がったパソコンとビブリオネットの会員登録(9000円)ができていれば、いつでも録音図書を検索して聴くことができる。
しかも、新しく発売される「らくらくホンV」には、このビブリオネットを聴けるアプリも搭載されるとか。いつでも、どこでも携帯を持ち歩いて読書ができるわけだ。
スタートして5年ぐらいになると思うが、タイトル数も10000を越えて、かなり実用的になってきた。

そんなビブリオネットで、昨夜、新着図書を調べていたら、
大江健三郎の『治療塔』というのがピンときた。
大江は、久しぶりだ。しかもSFタッチで書かれたものは始めて読む。
いつもの早聴きで、一気に4時間ぐらいで読み終えた。

1990年に出版されたものが、最近文庫になっているらしい。
少しあらすじを紹介すると、

> 度重なる原発の放射能汚染などで汚れきった地球から
> 「新しい地球」(新しい惑星)へ「選ばれた者」が飛び立った
> 「選ばれた者」たちは「新しい地球」で「治療塔」と呼ばれる不思議な建造物に遭遇する。

> この「治療塔」は、誰がいつ作ったのかまったくわからない。
> しかし、この「治療塔」の中で過ごすと
> 人体に蓄積した疲れは取れ、それどころか若返る効果があるのだ。なんと死人さえ生き返ったという。
> 「新しい地球」の過酷な自然条件で痛めつけられた人々の身体は
> この「治療塔」で再生されることになる。

> 一方、地球の残留者たちは、再建運動として生産のシステムを根本から組み換える。
> あらゆる産業を分割・単純化した大量生産から「器用仕事[プリコラージュ]」へと
> システムを再編する。
> 残留者たちが、生活レベルを計画的に退行させて持ちこたえているところに、
> 10年後、飛び立った「選ばれた者」たちが古い地球に舞い戻ってきた。

> 「新しい地球」の環境は、予想以上に厳しかったのだ。
> そこで、「治療塔」で再生した新しい肉体をもって
> 古い地球に戻り、「残留者」を支配し、古い地球を建て直そうという決断がなされたのだ。

> かくして、肉体改造を成し遂げた新しい人類と残留した古い人類の間でのせめぎ合いが起こり物語はクライマックスに。……。

20年後、この物語を読んで、今のところまだ人類は新しい地球を捜してすぐに飛び立つことはないけれども、
遺伝子組み替えが現実の物になっている今、選ばれた者だけが長生きできたり、肉体改造を成し遂げることもできる日も近いような気がする。
大江の描くような新しいシステムを選ぶか、今の生活水準を落とした古いシステムを
選ぶかというようなハッキリした図式は目の前に現れないけど、
──このハッキリ現れないようにされているところが日本のあいまいさだと思うが──
癌治療や、臓器移植に直面したときには、我々も日々そういう選択をして生きているのではという実感を持つはずだ。

大江さん、この小説でも息子たちを登場させている。
光さんは、おじいさんの音楽家として。
もう何度も、障害を持つ我が子を登場させるやり方にワンパターンなものを感じて、
うんざりしていた時期もあるが、今回は、ここまで繰り返されるとほほえましく感じた。

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